「上から目線の天才外科医。彼を目覚めさせたのは、魔術ー」
『ドクター・ストレンジ』は2016年(日本では2017年)に公開された映画で、「ドクター・ストレンジ」シリーズの最初の作品であり、MCU( Marvel Cinematic Universe)の中では『シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ』に続く14作目の作品となります。
MCUの中での位置付けはフェーズ3、時系列は前半は過去の話、後半は『シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ』の後の話だと思われますが、今作ではアベンジャーズメンバーとの絡みは一切ありません。
制作費は1億6千万ドル、世界興行収入は6億8千万ドルでした。ちなみに日本では初登場時に映画興行収入ランキングでは初登場1位を果たしましたが、アメコミ映画がランキング1位にランクインするのは『アベンジャーズ / エイジ・オブ・ウルトロン』以来で、単体タイトル作品としては『アイアンマン』以来の快挙だそうです!
※ここからは『ドクター・ストレンジ』の内容を丁寧に解説してまとめています。もちろんネタバレありです。
主な登場人物
スティーブン・ストレンジ(ドクター・ストレンジ) / ベネディクト・カンバーバッチ
神の手と呼ばれるほどの天才外科医。富と名声を手にしたが、交通事故で両手が麻痺してしまい医者としての道を閉ざされたところで魔術に出会う。アイアンマンのトニー・スタークと同じくらい傲慢な性格。
ベネディクト・カンバーバッチはイギリス出身の1976年生まれ。15世紀のイングランドの王・リチャード3世の血縁らしい。
クリスティーン・パーマー / レイチェル・マクアダムス
ストレンジと昔付き合っていたが、今は同僚の救命医。傲慢なストレンジのことを気にかけるも、信頼している。
レイチェル・マクアダムスはカナダ出身の1978年生まれ。2004年に公開された『きみに読む物語』のヒロイン役でブレイク、共演したライアン・ゴズリングとベスト・キス賞を受賞した。
エンシェント・ワン / ティルダ・スウィントン
至高の魔術師「ソーサラー・スプリーム」の称号を持つ最強とも言われる魔術師。ストレンジの才能を見出して魔術を教える。後継者が現れるまで禁断の魔術に手を出して長い時間を生きてきた。
ティルダ・スウィントンはイギリス出身の1960年生まれ。2009年のベルリン国際映画祭では審査委員長を務めた。
バロン・モルド / キウェテル・イジョホー
ストレンジの兄弟子。エンシェント・ワンを強く信頼している真面目な魔術師だが、のちにエンシェント・ワンの秘密を知ってダークサイドに落ちてしまう。
キウェテル・イジョホーはイギリス出身の1977年生まれ。1997年のスピルバーグ監督作品『アミスタッド』で映画デビュー、映画への出演が増えた現在も、シェイクスピア関連の演劇を中心に出演し続けている。
カエシリウス / マッツ・ミケルセン
かつてはエンシェント・ワンの弟子だったが、強力な魔力と不死の力に魅入られて離反。死や時間の概念のない暗黒次元の世界をもたらそうとしている。
マッツ・ミケルセンはデンマーク出身の1965年生まれ。俳優になる前は体操選手、プロのダンサーとして活躍していた。
ドルマムゥ / ベネディクト・カンバーバッチ
暗黒次元を支配する存在で、地球を侵略しようと長年エンシェント・ワンと対立してきた。圧倒的な力を持っていて直接倒す方法は現段階ではわかっていない。
顔のみの登場だが、ストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチがフェイス・モーションキャプチャーを使って演じている。つまりストレンジ対ドルマムゥはカンバーバッチ対カンバーバッチ。
ストーリー解説
カエシリウスが禁断の「カリオストロの書」を強奪!
ネパールにある魔術師の修行場「カマー・タージ」。ここには至高の魔術師と呼ばれるエンシェント・ワンをはじめ、多くの魔術師が住んでいました。
ある夜、かつてのエンシェント・ワンの弟子だったカエシリウスが部下を引き連れてカマー・タージに潜入、狙いは暗黒次元にまつわることが示されている「カリオストロの書」でした。カエシリウスはカリオストロの書を手にとると、中の暗黒次元に関するページだけ破って持ち去りました。
全てを失った天才外科医ストレンジ
神の手とも言われる技術で手術困難な患者を救い、数々の講演を行う天才外科医ストレンジ。高級アパートに住み、高級腕時計や車を複数所有するなど富と名声をその手にしていましたが、自分のキャリアに傷がつくような手術は引き受けないようなひどく傲慢な性格でした。
ある日ストレンジは、愛車のランボルギーニを運転して学会の公演に向かいました。しかし、その運転中に脇見運転が原因で交通事故を起こしてしまいます。一命を取り留めたストレンジでしたが、その両手には麻痺が残り、医者としての復帰は不可能でした。
ストレンジは全財産をかけて何度も手術に臨みますが回復する見込みはありません。自暴自棄になったストレンジは世界中の医師、ついには元恋人のクリスティーンからも見放されてしまいます。
かすかな望みと魔術との出会い
絶望の中、ストレンジは下半身不随だった男が回復して歩けるようになったという話を聞き、その男に会いに行きます。ストレンジが会いに行ったその男はバスケットボールを楽しんでいて、下半身不随だったことなんて嘘のようでした。さらにその男はかつてストレンジが手術を断った男でもありました。
傲慢だったかつての自分を恥じ、回復の秘密を尋ねたストレンジ。男は「カマー・タージへ行け」とアドバイスします。ストレンジは藁にもすがる思いで、わずかな所持金を手にネパールへ向かいました。
ネパールに着き、カマー・タージを探すストレンジはモルドと出会います。そしてカマー・タージに案内されたストレンジはそこでエンシェント・ワンと出会いました。
エンシェント・ワンは魔術で両手が治ると言いますが、プライドの高いストレンジはとてもそれを信じられず暴言を吐きます。しかしエンシェント・ワンがストレンジに多次元宇宙(マルチバース)の世界を体験させたことでストレンジは魔術の存在を信じることになったのでした。
カエシリウスが暗黒次元の力を手に入れる
カリオストロの書から暗黒次元に関するページを盗んだカエシリウスは、内容に則った儀式を行います。そして暗黒次元の支配者ドルマムゥと接触し、強大な魔力と不老不死の力を得たのでした。
カエシリウスは現実世界を暗黒次元に引き込むために、弟子達と共に魔術師達を殺しに向かいます。
ストレンジの才能の開花とアガモットの目
元々天才的な頭脳と探究心を持っていたストレンジは修行の中で飛躍的な進歩を見せます。そして入門から数ヶ月、魔術の道を極めたくなっていたストレンジは書物庫で「カリオストロの書」を発見します。しかし書物番であるウォンが、かつての弟子で裏切り者のカエシリウスの存在をストレンジに聞かせ、「カリオストロの書」の閲覧を禁止しました。
閲覧を禁止されたストレンジでしたが、好奇心と探究心からウォンの目を盗んで書物庫に侵入して「カリオストロの書」を読んでしまいます。そしてその中で「アガモットの目」と呼ばれる首飾りに関する記述を発見、カマー・タージに保管されているアガモットの目を手に取りました。
アガモットの目は普段はただの首飾りですが、「カリオストロの書」に記述してある難解な呪文を理解したストレンジはその力を解放してしまいます。それはアガモットの目の中にあるタイム・ストーンを使って時間を操るというものでした。
さらにストレンジは時間を巻き戻して「カリオストロの書」の破られたページを再現、内容を把握したところでモルドとウォンが現れ止められます。
魔術師の役目、そしてカエシリウスとの対決
時間を操るような自然の摂理に反した行為は、暗黒次元の支配者ドルマムゥを呼び寄せてしまい、地球を危険にさらすことになると怒られるストレンジ。
さらにニューヨーク、香港、ロンドンにサンクタムという施設がありそれぞれから結界を張ることで、多次元の侵略から地球を守っているとウォンは説明します。
この現実世界を闇の勢力の侵略に人知れず対抗することが魔術師の役目ですが、ストレンジは地球を守るという役目には関心がありませんでした。
そこへ魔術師を殺しに来たカエシリウス達が襲撃、ストレンジは否応ながら戦いへと巻き込まれていきます。ニューヨークのサンクタムへ戦いの場を移したストレンジはカエシリウスに苦戦しますが、そこで浮遊マントという意思を持つアイテムの助けもあって、なんとかカエシリウスを捕らえたのでした。
クリスティーンとの再会、そして別れ
しかしその隙を突いて、カエシリウスの弟子がストレンジを襲いストレンジは負傷、魔術の力でなんとかクリスティーンが働く病院へたどり着きます。
クリスティーンは、医師ではなく魔術師として戻って来たストレンジに戸惑いながらも手術を施し、ストレンジの命を救いました。
そして復縁を望むストレンジの打ち明けに対してはイエスとは言わず、頬にキスをして別れを決めたのでした。
2度目のカエシリウスとの戦闘、明かされるエンシェント・ワンの秘密
ニューヨークのサンクタムに戻ったストレンジですが、そこにカエシリウスが弟子達と共に再び襲撃して来ます。現実世界に影響の出ない「ミラー次元」という世界に場所を変えて、ストレンジとモルド、そしてエンシェント・ワンはカエシリウス達と激突しました。
その戦いの最中、カエシリウスはエンシェント・ワンの秘密を暴露します。それは彼女が禁術だと教え続けてきた暗黒次元の力を彼女自身が使っているというものでした。その力によってエンシェント・ワンは700年以上も生き続け、後継を育てながら闇の勢力と戦ってきたのです。
このことを予測していたストレンジはさほどショックではありませんでしたが、エンシェント・ワンを信頼していたモルドはショックを隠し切れませんでした。
結果、エンシェント・ワンはカエシリウスとの戦いに敗れ命を落としてしまいます。ストレンジに「人のために生きよ」と遺して。
最終決戦、舞台は香港!
香港のサンクタムを潰しに向かったカエシリウス達を追うストレンジとモルド。しかし香港に着くとサンクタムはほぼ壊滅状態で、暗黒次元の支配者ドルマムゥが今にも地球を侵略しようとしているところでした。
ストレンジは自ら暗黒次元へ飛び込み、ドルマムゥと直接対決します。しかしドルマムゥは圧倒的すぎる力でストレンジを瞬殺。全てが終わりかに見えたその時、ドルマムゥの前に再びストレンジが現れました。再びドルマムゥはストレンジを瞬殺しますが、殺しても殺してもストレンジがドルマムゥの前に登場します。
これはアガモットの目の力で、時間を何度も巻き戻しにするというストレンジの罠でした。最初から勝てないとわかっていたストレンジは、この終わることのない無限ループにドルマムゥをハメたのです。
そしてストレンジは「このループを解除して欲しければ、カエシリウス達を連れて地球から手を引け」と取引を要求します。永遠に続くループに耐えられなくなったドルマムゥはカエシリウス達を吸い上げて、暗黒次元と共に去って行ったのでした。
ソーとストレンジ、そしてモルドはー
戦いが終わって束の間の平穏が訪れたある日。ストレンジの元にアスガルドの王子・ソーがやってきます。そしてオーディンを探すのを手伝って欲しいと頼むのでした。
一方、エンシェント・ワンが暗黒次元の力を使っていたという真実、そしてストレンジが時間を操って自然の摂理を乱したことを許せないモルドは、魔術師が多すぎることが間違っていると考え出すのでした。
今後のために押さえておきたいポイント
- 今作で登場したアイテム、アガモットの目の中には超重要アイテムであるインフィニティ・ストーンの一つタイム・ストーンが収められています。これで現在、タイム・ストーンとマインド・ストーンは地球に(『アベンジャーズ / エイジ・オブ・ウルトロン』参照)、パワー・ストーンはザンダー星に(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』参照)、スペース・ストーンはアスガルドに(『マイティ・ソー / ダーク・ワールド』参照)、リアリティ・ストーンは行方不明(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』参照)という状態です。
・今までのMCUには無かった「魔術」という世界観のため、特有の専門用語がたくさん出てきました。中でも特に押さえておきたい多元宇宙(マルチバース)という言葉について解説します。多元宇宙とは、我々の住む世界とは違う世界がいくつも存在していることを言い、魔術師達はこれらの次元にアクセスすることができます。 - 今作で登場した次元は
ミラー次元…現実世界を反映しているものの、鏡映しのように正反対の世界で、暗黒のエネルギーで成り立っている。ミラー次元から現実世界を視認することはできるが、直接的な干渉はできない。逆に、現実世界側からは一切の視認、干渉は不可能。主に戦闘時や、捕らえた相手の拘束に使用される。暗黒のエネルギーの魔術の使い手は、この次元内の構造を自在に操ることができる。
アストラル次元…肉体を離れた精神や魂などの霊的な物が存在する次元。この次元も現実と密接に繋がっていて、幽体離脱のように肉体から“アストラル体”を分離させ、建物などの構造物を無視して自在に移動することができる。アストラル体同士で、会話や戦闘をすることも可能。しかし肉体は無防備な状態のため、敵に襲撃される危険もある。基本的に現実世界からの認識は不可能だが、アストラル次元側から姿や音声を現実世界に現すことは可能。壁や物体にぶつかった際の物音や衝撃はそのまま現実世界にも反映される。
暗黒次元…時間や生死、倫理など人間のあらゆる概念が存在しない暗黒の世界。ドルマムゥに支配されている。 - 最後にソーが登場したことで、ストレンジとMCUの繋がりが見えてきました。この展開は「マイティ・ソー」シリーズ最終作の『マイティ・ソー / バトルロイヤル』に繋がります。
MCUの次の作品は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー : リミックス』です!