今忘れられない夏休みが始まるー
『スパイダーマン : ファー・フロム・ホーム』は2019年に公開された映画で、MCU(MARVEL Cinematic Universe)の中では『アベンジャーズ / エンドゲーム』に続く23作目の作品です。
MCUでの位置付けはフェーズ3を締めくくる最後の作品となり、時系列としては『アベンジャーズ / エンドゲーム』から8ヶ月後の世界が舞台となります。
制作費は1億6000万ドル、世界興行収入は11億3200万ドル、これまで公開されてきた『スパイダーマン』関連の映画、そして配給のソニー・ピクチャーズ史上最高の興行収入を記録しました。
予告映像でトム・ホランドが注意しているように『アベンジャーズ / エンドゲーム』をまだ観ていない人は絶対に観てはいけない、そんな内容になっています。
※ここからは『スパイダーマン : ファー・フロム・ホーム』の内容を丁寧に解説してまとめています。もちろんネタバレありです。
主な登場人物
ピーター・パーカー(スパイダーマン) / トム・ホランド
優れた身体能力を持つヒーローでありながらニューヨークで高校生活を送る学生。『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』でアベンジャーズの一員になるが、その正体は親友のネッドしか知らない。MJのことが好き。
トム・ホランドはイギリス出身の1996年生まれ。好きな映画は『プライベート・ライアン(1998)』。
ミシェル・ジョーンズ(MJ) / ゼンデイヤ
ピーターのクラスメイト。口数少ない変わり者で周囲からはちょっと浮いた存在。ピーターのことを気にしており、よく観察している。
ゼンデイヤはアメリカ出身の1996年生まれ。シンガーソングライター、ダンサーとしても活躍しており、ダンスと友情を描いたコメディドラマ『シェキラ!(2010)』で一躍有名に。
ネッド・リーズ / ジェイコブ・バタロン
ピーターのクラスメイトで親友。学校ではピーターの正体を知る唯一の人物で、ピーターのヒーロー活動をサポートしている。
ジェイコブ・バタロンはアメリカ出身の1996年生まれ。フィリピン人の両親から生まれるがタガログ語は話せない。
ニック・フューリー / サミュエル・L・ジャクソン
元S.H.I.E.L.D.長官でアベンジャーズを結成した人物。『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』で消滅していたが『アベンジャーズ / エンドゲーム』で復活後、新たなヒーローチームの結成を図る。
サミュエル・L・ジャクソンはアメリカ出身の1948年生まれ。大学で演技に出会うまでは海洋生物学者になるつもりだった。
マリア・ヒル / コビー・スマルダーズ
元S.H.I.E.L.D.副長官で、よくニックと行動を共にしている。
コビー・スマルダーズはカナダ出身の1982年生まれ。DCコミックス映画『ワンダーウーマン』で主役のダイアナ役の最有力候補の1人だった。
メイ・パーカー / マリサ・トメイ
ピーターの叔母であり育ての親。スパイダーマンの正体がピーターということを知ったようで、ピーターのことを応援している。
マリサ・トメイはアメリカ出身の1964年生まれ。アメリカとイタリアの二重国籍を持つ。
ハロルド・”ハッピー”・ホーガン / ジョン・ファヴロー
トニー・スタークの親友にして運転手を務めていた。トニー亡き後はピーターを見守りつつ、メイ叔母さんに好意を寄せている。
ジョン・ファヴローはアメリカ出身の1966年生まれ。奥さんのホヤ・ウィレムは医者。
エレメンタルズ
突如ピーター達の世界に現れた火・水・風・土の4元素の力をもつモンスター達。本編で語られことはないがそれぞれ一応名前がある。
火…モルテンマン 水…ハイドロマン 風…ゼファ 土…サンドマン
クエンティン・ベック(ミステリオ) / ジェイク・ギレンホール
故郷を滅ぼしたエレメンタルズを倒すため、ピーター達の住む世界とは違う世界「アース833」からやって来たというヒーロー。
ジェイク・ギレンホールはアメリカ出身の1980年生まれ。スウェーデンの家系で、「ギレンホール」という名前の意味はスウェーデン語で「金の部屋」という意味。
ストーリー解説
エレメンタルズが襲来、謎の男クエンティン・ベックの登場
『アベンジャーズ / エンドゲーム』の戦いから8ヶ月後ー。ニック・フューリーとマリア・ヒルの2人は、メキシコの小さな村が砂嵐で破壊されたと聞いて調査にやって来ました。
そこで2人の前に土で出来た巨大な人型のモンスターが現れます。自然の力を持つ怪物に苦戦するフューリー達でしたが、そこへ謎の男が空から現れ、両手から緑の閃光を放って2人を救いました。
平和な学園生活とヒーロー活動に勤しむピーター
その頃ニューヨークのミッドタウン高校では『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』の消滅から戻ってきた学生たちが、登校を再開していました。消滅を免れていた学生はそのまま5つ歳をとり、消滅していた学生は5年前のままの姿という不思議な状況でしたが、ピーター・パーカーは5年ぶりに再会したクラスメイトたちと夏休みを迎えようとしていました。そして夏休みには、学校が企画した「科学史ツアー」という名の2週間のヨーロッパ研修旅行が予定されていました。ピーターは旅行先で、想いを寄せるミシェル・ジョーンズ(MJ)に告白することを決意しました。
メイ叔母さんも『アベンジャーズ / エンドゲーム』以降、混乱した世界を助けるために奉仕活動を行なっており、ピーターはスパイダーマンとしてその活動に度々参加していました。ファンに囲まれたピーターは「アイアンマンの後を継ぐの?」と聞かれ困ってしまいます。トニー亡き後、世間はアイアンマンの存在の大きさを崇めていました。ピーターはその意志を継ぐことの責任の大きさに悩んでいたのでした。
ある日そんなピーターのもとにハッピー・ホーガンがやって来ます。ハッピーが「ニック・フューリーから電話がかかってくるぞ」と伝えた直後ピーターの携帯に知らない番号から電話が。ですが夏休みを満喫したいピーターはこれを無視して留守電にしてしまいます。
そしてヒーローとしてではなく1人の男子学生として旅行に参加したいピーターは、スパイダーマンのスーツも家に置いてヨーロッパ旅行へ出かけるのでした。(後の出国時の手荷物検査の時にメイ叔母さんがこっそりスーツケースにスパイダーマンのスーツを入れていたことに気づきます)
ヴェネチアにエレメンタルズ出現、ベックと出会う
ヨーロッパ旅行の最初の地ヴェネチアを訪れたピーター達は観光を楽しんでいました。ピーターはMJにプレゼントしようと彼女の好きなブラックダリアの形をしたガラスのネックレスをこっそりと購入します。
その時運河から突然水で出来た巨大な人型のモンスターが現れ市民やピーターたちに襲い掛かかります。友人達を守ろうとするもスパイダーマンのスーツをホテルに置いてきてしまい、思うように戦えないピーター。そこへ、緑色の閃光を放ちながら空を飛ぶ男が現れてモンスターを倒してしまいます。
その男は「ミステリオ(謎の男)」と呼ばれてテレビで報道されていました。その夜、ホテルに戻ったピーターの部屋になんとフューリーが現れます。電話を立て続けに無視されたことに少し腹を立てているフューリーは、ピーターを半ば無理やり外に連れ出します。向かった先には仮設の指令本部があり、マリア・ヒルや数人のスタッフ、そして昼間ピーターを助けたミステリオことクエンティン・ベックもいました。
自身を「アース833」というマルチバース(異世界)からやってきたと語るベックは、そのアース833を滅ぼした土・水・火・風の性質を持つ4体の怪物・エレメンタルズがピーターたちの住む「アース616」の侵略を開始したと語ります。メキシコでベックに会っていたフューリーは、この脅威を知らせるためピーターに電話していたのでした。
フューリーはピーターが亡きトニーの後継者であることを伝え、トニーの遺品であるサングラスを渡します。このサングラスには、人工知能E.D.I.T.H.(イーディス)が搭載されているほか、宇宙衛星から的確に敵を攻撃できるドローンを呼び出せるなどスターク・インダストリーズの技術が結集されている代物でした。
エレメンタルズの次の目的地はウィーンのプラハだと言うミステリオはピーターに共闘を申し込みますが、自分にはトニーの代わりは務まらないと思ったピーターはそれを断って旅行に戻ってしまいます。
ピーターたちは強制的にプラハへ、明らかになるミステリオの正体
翌朝、ピーター達ミッドタウン高校一同は、予定していた行き先がパリからプラハに変更されたことを聞かされます。完全にフューリーが裏から手を回して強制的に行き先を変えていたのでした。何も知らずにプラハ行きを喜ぶクラスメートをよそに、ピーターはフューリーが派遣したエージェントから黒いステルス・スーツまで渡され、やむなくフューリーに協力することを決めます。
プラハでオペラを鑑賞中、外には火のエレメンタルズが現れていました。ピーターはこっそり抜け出して、ベックと共闘して火のエレメンタルズと戦いますが、同じくこっそり抜け出していたクラスメートのネッドを危険な目にあわせてしまいました。
なんとか火のエレメンタルズを倒したピーターとベックでしたが、ピーターは自分の不甲斐なさを感じるとともにヒーローでいることに自信を失くしてしまったのでした。
戦いのあと、ベックとピーターは小さなバーで軽い打ち上げをしていました。トニーのサングラスを試しにかけたベックの姿にトニーの姿を重ねたピーターは、ミステリオこそがアイアンマンの後継者に相応しいと思い、E.D.I.T.H.をベックに譲ってしまいます。そしてピーターはベックに別れを告げ、バーを後にするのでした。
しかし、ピーターが去った後、バーに残ったベックの周りの風景が変わっていきます。するとそこはコンクリート剥き出しの素っ気ない部屋でした。そしてそこにはベックの仲間達の姿も。実はベックの正体は、かつてスターク・インダストリーズで「B.A.R.F.」という超高性能なホログラム技術を開発していた元社員で、トニーにアイデアを却下されたことで仲間達と共に解雇され全員で復讐を企んでいたのでした。
「アース833」からやってきたという話も全てベックの嘘。ピーターと飲んでいたバーもエレメンタルズも全て、ベックとその仲間達によってホログラム技術とハイテクドローンで作り上げられた幻想でした。ベックはトニー亡き世界でヒーローになるため、そのホログラム技術とドローンを駆使して「エレメンタルズと戦うスーパーヒーロー」という自作自演を行なっていたのでした。
そしてついにトニーの技術が詰まった「兵器」とも呼べるE.D.I.T.Hをも手に入れたベックは、最後の仕上げに取り掛かろうとします。
ミステリオの正体に気づいたピーターとピーターの正体に気づいたMJ
ベックと別れてホテルに戻ったピーターは、度重なって危険な目にあったためにヨーロッパ研修旅行は急遽中止、明日帰国になったことを知らされます。突然のこの日が最後の夜となってしまい、ピーターはMJに告白するため夜の街を散歩しようと誘いました。
他愛もない話をしながら歩く2人。ついにMJに告白しようとしたピーターでしたが、その時MJは「スパイダーマンなんでしょ?」とピーターの正体に気づいていたことをカミングアウト。プラハでの戦闘現場に落ちていた装置の一部とスパイダー・ウェブを拾っていたMJはそれをピーターに証拠だと言わんばかりに差し出します。動揺したピーターがなんとか誤魔化そうとするその時、不意に装置が起動し、そこからかなりリアルなエレメンタルズのホログラムが飛び出したのです。
そこにはエレメンタルズと戦うベックの映像も映し出されていました。この装置によってピーターはベックがホログラムを投影して自作自演していたことに気づきます。そして改めてピーターはMJに自身の正体を明かし、E.D.I.T.H.を渡してしまった自分のミスを正すためにフューリーがいるベルリンへ向かうのでした。
ベックと対決するもまんまと翻弄されるピーター
ベルリンに着いたピーターの元へフューリーが車で迎えにきます。そしてベックの話が全て嘘であること、そしてその真実をMJとネッドにも話してしまったことをフューリーに打ち明けました。
その時いきなり周りの景色が変化し出します。このフューリーはベックによってホログラムで作られていた映像だったのです。まんまと騙されたピーターはベックのホログラムとドローンによる攻撃に苦戦、線路上に誘導され高速列車にはねられてそのままオランダまで運ばれてしまうのでした。
真実を知るというピーターの同級生MJとネッドを始末するため、ベックはロンドンへ向かいます。
満身創痍ながらも何とか一命をとりとめていたピーターは、片田舎の村で電話を借り、ハッピーに連絡をとりました。ほどなくスターク・インダストリーのジェット機で迎えに来たハッピーに対し、ピーターはベックに騙された己の情けなさとトニーの不在に「自身がない」と弱音を吐きます。ですが「トニーだってそうだった。だけど君を選んだ時は迷わなかった。」というハッピーの言葉に励まされ気力を取り戻すピーター。
そして、トニーが命を賭して守った世界をベックから守るべく、機内のマシンで新たな改良型スパイダースーツを製作します。1人でスーツ製作に没頭する姿をかつてのトニーに重ねたハッピーにはどこか安堵の表情が浮かんでいました。
ピーター vs ベック、ロンドンで最終決戦
ロンドンではベックがE.D.I.T.H.を使って宇宙からドローンを呼び寄せて作った巨大な怪物( もちろんホログラム)が街を襲っていました。そしてドローンの一部がMJとネッドを襲います。
ピーターはスーツに新たに搭載したグライダー機能でジェットから飛び降り、ホログラムの中に飛び込みました。ピーターが生きていたことを知ったベックはドローンを使ってピーターに猛攻撃を仕掛けます。一方でハッピーはMJとネッドを救出に向かいました。
激しい攻防の末、ピーターが避けたドローンの攻撃がベックに当たり決着、「人は信じたいものを信じる」と言い残してベックは息を引き取りました。
E.D.I.T.H.を取り戻したピーターはドローンを全て撤退させます。そして無事だったMJと再会してようやく告白し、2人はキスをかわすのでした。
スパイダーマン史上、最も衝撃的な展開へ
戦いが終わりニューヨークに戻ったピーターは、スパイダーマンの姿でMJと空中遊泳を楽しんでいました。その時、ピーター達は街頭スクリーンに映し出されたある映像を目撃します。そこにはニュースメディアのデイリー・ビューグルが、匿名から送られてきた衝撃的な映像と言い、ベックの死の間際を撮影した映像が映されていました。
編集され加工された映像の中でベックは、あたかもスパイダーマンに殺されたように見せかけ、エレメンタルズに関わる騒動も全てスパイダーマンの仕業であると言います。そして最後に「スパイダーマンの正体はピーター・パーカーだ」と顔写真まで載せて正体をバラしてしまうのでした。
一方フューリーとマリア・ヒルは車を走らせていました。「俺はベックのことを最初から疑っていた」「いや、疑っていなかったわ」というやり取りをしながら、フューリーの顔が緑色に変わっていきます。
なんとフューリーとマリア・ヒルはスクラル人のタロスとソレンが化けていたのでした(『キャプテン・マーベル』参照)。
タロスはスパイダーマンの正体が世間にバレてしまったという大きな出来事を電話で報告します。その相手とは本物のニック・フューリー。フューリーは宇宙のどこかにある巨大な基地のような所にいました。報告を受けたフューリーは立ち上がり「仕事の時間だ」と基地内にいるスクラル人達に告げるのでした。
今後のために押さえておきたいポイント
- ベック(ミステリオ)が他の次元からやって来たという話は結局全て嘘でした。ですが、別の次元が存在するという認識は今後のMCUを語る上で重要になっていくと思います。
- ベック(ミステリオ)によって全世界に正体がバラされてしまうという、スパイダーマン史上最も衝撃的な結末を迎えました。しかも殺人犯という扱いです。これはピーターのみならず、メイおばさんやMJといったピーターに近しい人達にも危険が及ぶことを意味します。全世界から敵視されたピーターはこれからどうするのでしょうか。
- フューリーの部下として一緒にいたディミトリ。ディミトリというキャラクターは原作コミックでは「カメレオン」という有名なヴィランでもあります。今作ではバスの運転手を務めたぐらいしか目立った動きはありませんが、今後ヴィランとして再登場するかもしれません。
- 自分の死の瞬間を映像におさめて公開したことでピーターを殺人犯に仕立て上げたベックですが、本当に死んだのかはわかりません。何しろホログラム技術のプロフェッショナル。死を偽装することも可能ではないでしょうか。
- タロスとソレンが一体いつからフューリー達に成り代わっていたのかはわかりません。もしかすると今作だけでなくずっと前のMCU作品から擬態していた可能性もあります。
- ラストで本物のフューリーがいた宇宙基地。これはS.H.I.E.L.D.に代わる組織S.W.O.R.D.の基地かもしれません。
MCUの次の作品は『ブラック・ウィドウ』です!