『ハング・オーバー』シリーズを手がけたトッド・フィリップス監督によって、心優しいアーサー・フレックが悪の化身ともいえる「ジョーカー」に変わっていく様子を描いた問題作『ジョーカー』。本作は開発当初の予想を大きく上回り、公開2週間で6億ドルの世界興行収入を記録しています。
本作の魅力はなんと言っても、一言では語りつくせない多くの謎と、アーサー・フレックを演じるホアキン・フェニックスの圧巻の演技です。Colliderの中で、ホアキン・フェニックスと監督のトッド・フィリップスが作中のあのシーンの疑問について語りました。
※本記事は『ジョーカー』本編の内容に触れています。まだ本作をご覧になっていない方はご注意ください。
アーサーはなぜ自殺せずにマレーを殺害したのか
笑ってしまう病気によってダダスベりしたアーサーのステージの映像を見た人気コメディアンのマレー・フランクリンは、自身の人気番組「マレー・フランクリン・ショー」のゲストにアーサーを呼びました。憧れのコメディアンであるマレーの番組に自分が呼ばれるなんて、と舞い上がったアーサーは自分がバカにされているとも気づかずに、番組で披露するネタの練習をします。そのネタは「ノック、ノック」と言ってポケットから拳銃を取り出して自分の頭を撃つというものでした。
ですがマレー・フランクリン・ショーの本番で、アーサーは地下鉄の殺人犯であることを自供し、さらに自分をバカにしたマレーの頭部を撃って殺害します。少なくとも楽屋にいた時のアーサーには、殺人事件の自供やマレー殺害なんて少しも考えていなかったと思います。なぜ、生放送の本番であのような行為に及んだのでしょうか。
このことについてトッド・フィリップス監督は「アーサーはめちゃくちゃな方法でメッセージを伝えます。映画を観てるとアーサーがテレビ番組の最中に自殺しようとしているのがわかると思います。ですが彼はあの瞬間考えを変えたんです。」と言います。
なぜ急に自殺ではなく殺害という考えに変わったのか。ホアキン・フェニックスは「アーサーは誰かに認められることを求めていて、そのやり方は自滅的だけども、自分の死は意味のあるものにしたいっていう人格なんです。アーサーは自分の日記に“この人生よりも意味のある死を望む”と書いてますよね。彼は誰かに認められる感覚を求めているんですよ。」
そしてトッド・フィリップス監督はアーサーの「自己愛」について付け加えています。「僕たちはアーサーの病状が何であるかについてはあまり語りません。アーサーが考えていることを伝えたくないからです。ただ、アーサーが激しいナルシシズムを持っているって点には僕たち全員が合意しました。それ以外に、彼の精神状態や彼が何を抱えていたのか、彼が何に苦しんでいるのかは本当にわかりません。だけど私はナルシシズムについて考えています。彼は自殺したい…だけどするなら人前で自殺したい。こうした考えには何らかの意味があるんです」
つまりアーサーはあの番組中、どうせ死ぬならもっと注目を浴びてもっと大勢の人に観られる中で死にたい、と思ってマレー殺害に到ったということでしょうか。本作は何が本当の結末なのかいまだに明らかにされていません。それはトッド監督のみぞ知る…
source : Collider