心優しい青年アーサー・フレックが悪の化身ジョーカーへと変わっていく様子をホアキン・フェニックス主演で見事に描き切った映画『ジョーカー』。”アカデミー賞は確実”との呼び声も高い本作には、公開時には含まれていない削除されたシーンがいくつかあることが報告されていました。
脚本・監督を務めたトッド・フィリップスはIndiewireのインタビューの中で、その削除シーンの一部の内容を新たに明らかにしました。
ソフィーのシーンはなぜ削除されてしまったのか
今回明らかにされた削除シーンは、アーサーの住むアパートに引っ越してきた隣人ソフィーに関するもの。母親を看病しながら苦しい生活を送るアーサーでしたが、ある日アパートのエレベーターの中で出会ったシングルマザーのソフィーに、アーサーは心を惹かれていき、ついに2人は付き合うようになります。
ですが、自分が母親だと思っていたペニーが母親ではないということを知って絶望したアーサーがソフィーの部屋を訪ねた時、これまでのソフィーとの関係は全てアーサーの妄想によるものであることが明らかになるのでした。「アーサーでしょ?部屋を間違えてる…」と怯えた様子のソフィーでしたが、アーサーが部屋を後にして以降ソフィーは登場していません。
トッド監督によると、脚本にはその後マレー・フランクリン・ショーに出演したアーサーがマレーを射殺する様子をソフィーがテレビで観ているというシーンが予定されていたようです。
ではなぜトッド監督はこのシーンを削除したのでしょうか。それは『ジョーカー』という映画が、完全にアーサーの主観から語ることを重視したからだと言います。妄想癖を持っているアーサーの視点で展開される『ジョーカー』は、終始何が真実で何が妄想なのかが曖昧になっています。そこにソフィーの視点からの映像を挿入してしまうことで、「アーサーがマレー・フランクリン・ショーに出演して、マレーを射殺した」という事件が真実ということが露見してしまうため、監督はこのシーンをカットする決断を下したようです。
なお、アーサーがソフィーの部屋から出て行った後、ソフィーはアーサーに殺されてしまったのかという謎についてもすでに撮影監督のローレンス・シャーが「彼女は殺されていない」という真実を明らかにしているものの、この削除されていたシーンがもし挿入されていたとしたら、当然この謎も生まれていませんでした。
観客に物語を想像させることで「”アーサーはどれくらい狂っているのか?”と観客に問うテストみたいで、それが面白いと思っているんですよ。」と語るトッド監督。僕らはまさにその思惑通りに動かされてしまっているわけです。
「僕はエクステンデッド・バージョンっていうのが嫌いなんです。だって削除されたシーンっていうのは、何らかの理由があって削除されているわけですから。今存在している映画は僕が望んだ形の映画です。削除されたシーンをお見せすることは決してありません。」と語っていることから、この削除されたシーンを今後お目にかかることは難しそうです。
source : Indiewire