MCU(MARVEL CINEMATIC UNIVERSE)作品最新作『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』がコロナ禍最大の興行収入を記録するなど、マーベルコミックスを原作とするスーパーヒーロー映画は今やハリウッドを代表する一大ジャンルとなりましたが、MCUが大成功を収めるより前の2010年代前半は、様々な映画が企画段階でキャンセルされるなどある種の泥沼状態にありました。
その背景にはMCUという巨大プロジェクトの発足に伴い、統合契約が大幅に増加したため、計画されていたマーベル映画の全体が、急成長するMCUにキャラクターをリブートすることを優先しお蔵入りになってしまったこと、そして批評家による評判の悪さという点があります。
本記事では、そんな開発予定にありながらも志半ばで(現時点で)実現しなかったマーベル映画を紹介します。
『デアデビル2』
ベン・アフレック主演で公開された『デアデビル(2003)』は、批評家から「このジャンルに何の新味ももたらさない退屈で陰気なオリジンストーリー」と酷評されたため『デアデビル2』が日の目を見ることはありませんでした。後にヒロインのエレクトラを主役にしたスピンオフ作品『エレクトラ(2005)』が公開されるも全世界で酷評。ですが、マーベル・スタジオ(ディズニー)が20世紀フォックスを買収し『デアデビル』の知的財産権が譲渡されたことでNetflixの『デアデビル』TVシリーズへの道が開き、『デアデビル2』で描かれる予定だったコミックと同じストーリーアークが描かれることになりました。
『ハルク2』
MCU作品『インクレディブル・ハルク(2008)』が公開されるより前に、エリック・バナがブルース・バナーを演じた『ハルク(2003)』が公開されていました。全世界で2億4500万ドルの興行収入を上げ、新しいスーパーヒーロー・フランチャイズとしては好スタートを切ったため、『ハルク2』は前作に続いて早くも2005年に公開されると期待されていましたが、一連の製作遅延が発生。脚本家のジェームズ・シェイマスが、グレイ・ハルクと(現在MCUで採用されている)アボミネーションのコンビネーションを含む続編を起草したにもかかわらず、ユニバーサル・ピクチャーズが映画の主要製作期限を守らず、1年間の遅れを経て2006年にマーベル・スタジオが製作を引き受け『インクレディブル・ハルク』がリリースされています。
『パニッシャー2』
マーベル・コミックスで根強い人気のあるダークヒーロー「パニッシャー」はこれまで3度にわたって映画化されてきました。そのうちトム・ジェーンがフランク・キャッスル(パニッシャー)役を演じた『パニッシャー(2004)』は興行収入は振るわなかったものの、批評家からは好評価の声が上がり、続編『パニッシャー2』の製作が企画されていました。早ければ翌年の2005年に続編の撮影を開始する予定でしたが企画は頓挫、『パニッシャー2』は最終的にキャンセルされました。
『パニッシャー2 : ウォー・ゾーン』
上記『パニッシャー2』のキャンセルを受けて製作されたレキシー・アレキサンダー監督による新たな『パニッシャー : ウォー・ゾーン』は、(管理人の中では)マーベルの黒歴史的な一作となりました。批評家の反応は最悪で、興行収入も制作費のわずか3分の1。2009年初めにはマーベル・スタジオが「パニッシャー」シリーズの映像化権利を取り戻し、ジョン・バーナル主演のNetflixシリーズが製作されることになりました。
『スパイダーマン4』
世界中でのスパイダーマン人気に多大な貢献をしたサム・ライミ監督による『スパイダーマン』シリーズ3部作。『スパイダーマン4』の製作も企画されていましたが、敵役を起用するかで意見が対立して映画のプリプロダクション(撮影前作業)が中断しました。カーネイジ役のジム・キャリー、ミステリオ役のブルース・キャンベル、バルチャー役のジョン・マルコビッチなどの名前がソニーによって推されていましたが、ライミ監督は代わりに吸血鬼モービウスやカート・コナーズのリザードを入れることを望んでいました。
魅力的な悪役の選択肢はいくらでもあったにもかかわらず、ライミ監督は2009年にプロジェクトを離れ、その後主演のトビー・マグワイアも降板。2008年に『スパイダーマン4』の製作に加わった脚本家のジェームズ・ヴァンダービルトは、『スパイダーマン4』の脚本執筆中に、サム・ライミがプロジェクトから離脱した場合に備えてリブート版の脚本も書くように指示されており、この脚本が後の『アメイジング・スパイダーマン(2012)』のベースとなっています。
『アメイジング・スパイダーマン3』
マーク・ウェブ監督『アメイジング・スパイダーマン3』は、『アメイジング・スパイダーマン2』の劇場公開の11カ月前に製作が決定(同時に『アメイジング・スパイダーマン』の4作目も)していました。ですが『アメイジング・スパイダーマン2』の公開直後に主演のアンドリュー・ガーフィールドが、3作目以降もスパイダーマンを演じることを望まないだけでなく、ソニーとの契約も更新しないと公言したため、当初は2016年6月10日に公開予定だった『アメイジング・スパイダーマン3』の公開を2年延期することが発表されました。この大幅な延期はプロジェクトにとって致命的なものとなり、トム・ホランド演じるスパイダーマンをMCUに参加させる契約が結ばれたことで『アメイジング・スパイダーマン』シリーズがソニーによって廃止されることになりました。
『シニスター・シックス』
前述の『アメイジング・スパイダーマン3』が2年延期となったことを受けて、ソニーはヴィランチーム「シニスター・シックス」の映画化を具体的なものとして最終的に2016年11月11日に初公開される予定となりました。ですが、同様に『シニスター・シックス』はソニーがマーベルと権利関係を結んだことで頓挫し、現在はMCU向けに『シニスター・シックス』の新作が製作中です。
『マグニートー : X-MEN オリジン』
ウルヴァリンを主役にオリジンストーリーを描いたX-MENのスピンオフ作品『ウルヴァリン : X-MEN ZERO(2009)』のマグニートー版。脚本家のシェルドン・ターナーが、脚本を手掛け、2007年には監督としてデヴィッド・S・ゴイヤーも雇われるも、20世紀フォックスが『ウルヴァリン : X-MEN ZERO』の評価を待っている間に映画自体の製作が一時中断されました。最終的に各キャラクターのオリジンストーリーに焦点を当てた「X-MEN Origins」シリーズの計画は破棄され、マグニートーの物語は『X-Men : ファースト・ジェネレーション(2011)』で語られることになります。
『ファンタスティック・フォー3』
ティム・ストーリー監督による『ファンタスティック・フォー』シリーズは、PGレーティングにこだわったために、各作品ともセリフやアクションシーンが幼稚に感じられたことから厳しい批評を受けていました。主演のヨアン・グリフィズ、ジェシカ・アルバ、クリス・エヴァンス、マイケル・チクリスは当時3作品に出演する契約を結んでいましたが、契約は見直され企画は中止となりました。
『リブート版『ファンタスティック・フォー2』』
2015年に満を辞して登場したと思われたリブート版の『ファンタスティック・フォー』ですが、これまたマーベルの黒歴史に名を連ねることに。第36回ゴールデンラズベリー賞では、「最低監督」「最低前日譚・リメイク・盗作・続編」「最低作品」の各部門で受賞し、「映画的なマルウェア」とまで呼ばれるほどに。このような評価を受けたことで必要以上に長い時間をかけて続編の製作を慎重に進めており、2017年6月9日という公開予定日まで決定していましたが、最終的には中止となりました。
インヒューマンズ
元々はMCUフェーズ3の映画作品として2018年に公開予定でしたが、マーベル・スタジオ幹部を納得させられる脚本に仕上げられなかったことから、テレビシリーズでの放送となりました。独自の世界観を持っていただけに放送前から大きく注目されていましたが、中身が整っておらずアクションシーンも今一つと残念ながら1シーズンで打ち切りに。個人的にはMCUフェーズ6あたりで戻ってきてほしい…
ガンビット
X-MENの人気キャラクターの1人ガンビットを主役にした作品として主演にチャニング・テイタムを起用し、2019年2月15日の時点ですでに撮影は始まっていました。ところが製作チームとキャストのスケジュールの衝突が相次いだことで公開予定日が4回にわたって延期されたほか、撮影からちょうど1カ月が経過したころディズニーの20世紀フォックス買収によって撮影は中止。後にX-MENをMCUに導入することを優先したため、『ガンビット』のプロジェクトは消えてしまいました。
ゴーストライダー3
『ゴーストライダー2(2012)』の公開中、監督のマーク・ネヴェルダインとブライアン・テイラーは、ニコラス・ケイジ主演で第3弾をすぐに立ち上げると発言していました。ですが、ケイジは『ゴーストライダー2』の酷評を受けて、ジョニー・ブレイズ(ゴーストライダー)の役柄は明確に終わったと発言。この思いはマーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長も同じだったようで、2013年にゴーストライダーの映画化権はマーベル・スタジオに戻ったものの、『ゴーストライダー』を再び製作する計画は当面ないと発表しました。ドラマ『エージェント・オブ・シールド』のシーズン4でガブリエル・ルナ演じるゴーストライダーが登場し、ゴーストライダーを主人公とする単独ドラマシリーズの製作も企画されていましたが、創造面で行き詰まったことで製作中止に至ったようです。